役員退職給与の過大判決

1.はじめに
死亡退職した元取締役に対して支給された役員退職給与が過大であるかを巡り争われた事案について,東京高等裁判所は7月18日,一審の東京地裁に引き続き納税者の主張を退けました。なお本件は現在,最高裁に上告及び上告受理申立てがされています。


2.事案の概要
不動産賃貸業及び損害保険代理業等を営むA社(納税者)は,死亡退職したA社の元取締役Xに対して支給した役員退職給与1,622万4,000円 (=同業類似法人の功績倍率の最高値3.0倍×最終月額報酬32万円×勤続年数13年×功労加算130%)を損金算入して法人税の確定申告を行った。これに対し税務当局が,A社が損金算入した役員退職給与には,「不相当に高額な部分の金額」として損金不算入となる金額があると主張。なお元取締役Xは,A社のグループ企業4社からもそれぞれ役員退職給与の支給を受けていた。主な争点は,A社が支給した役員退職給与に,「不相当に高額な部分の金額」として損金算入されない金額があるか否かである。


3.納税者と税務当局の主張
 納税者は,本件での役員退職給与の適正額は,支給する役員退職給与が同業類似法人と比較して高額か否かを判定する際に用いる功績倍率を使用して,「最高功績倍率法(同業類似法人の功績倍率の最高値×最終月額報酬×勤続年数)」によって算出すべきと主張。さらに元取締役XのA社への貢献度等を考慮し,功労加算を認めるべきと主張した。
税務当局は,「平均功績倍率法(同業類似法人の功績倍率の平均値×最終月額報酬×勤続年数)」を用いるべきで,同業類似法人は,A社が所在する関東信越国税局管内から抽出した3法人であり,3法人の功績倍率の平均値「1.18倍」を基に算定すべきと主張。また元取締役Xの業務は社会通念上一般的な業務であったこと等から,功労加算も認められないと主張した。


4.東京高裁の判断及び判断基準
最終月額報酬は,通常退職役員の在職期間中の報酬の最高額を示すもので,退職直前に大幅に引き下げられたなどの特段の事情がある場合を除き,退職役員の法人に対する功績の程度を最もよく反映しているものといえることなどから,同業類似法人の抽出が合理的である限り,「平均功績倍率法」を用いることが,法令の趣旨に最も合致する合理的な方法である。本件では元取締役Xの月額報酬は32万円で,退職直前に大幅に引き下げられたなどの特段の事情がないため,「平均功績倍率法」によるべきであるとして、税務当局の主張を支持した。


5.同族会社経営陣の役員給与・退職金についての考え方
東京高裁の判決は中小同族会社における役員給与・退職金決定に関する実態を理解していないように思えてなりません。
本件にあてはめると下記の点に疑問を感じます。
・同業種の平均と比較すれば、妥当な退職金額を算定できるのか?
・最終月額報酬(本件の場合32万円)を使えば、妥当な退職金額を算定できるのか?(中小同族会社においてはお手盛りで役員給与額を決めることができるにもかかわらず、そのお手盛りで決めた最終月額報酬をそのまま使って、妥当な退職金額が算定できるのか?)


本件では「功績倍率」を中心とした論点になっていますが、「最終月額報酬」についても論点にすべきと考えます。
例として全く同じ業績・条件の会社が2社あるとします。
(X社)会社の内部留保にこだわらず毎期の役員給与を高く設定している会社
(Y社)会社の内部留保を重視して毎期の役員給与を低く設定している会社
X社は役員給与が高いため、その分会社に資金が留保されず、役員退職時に退職金の財源がありません。
Y社は役員給与が低いため、その分会社に資金が留保され、役員退職時に退職金の財源があります。その財源は役員の過去の貢献の蓄積とも言えるでしょう。
この場合、全く会社に対する貢献が同じであったとしても、最終月額報酬に基づく算定方法によると、支給できる役員退職金は、X社のほうが圧倒的に高くなります。
しかしY社のほうが退職金を高く取って当然であるという考え方も充分できると思います。


6.さいごに
本件では業種が「不動産賃貸業及び損害保険代理店業」であり、どこまで勤務実態・貢献度があったかということも含めての判決ですので、判決に異論を唱えることは本意ではありませんが、記事を読む限りでは納税者側にも相当の反論の余地がありそうに感じます。
また完全に私見ではありますが、役員退職給与については、あまりにも世間の感覚からかけ離れた金額でない限りは、基本的には会社が決定して実際に支給した退職金額は法人税法でも損金として認めるべきと考えます。少なくとも本件のように会社法上取締役としての責務を13年間担ってきた取締役が受け取った退職金1,600万円という金額を、税務当局が「あなたの退職金は過大ですので損金として認めません」と主張することに非常に違和感を覚えます。



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