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税務調査から考察する相続税のポイント

(新日本法規出版社-「e-hoki」、内にて連載中)


1.はじめに

税務申告をしたことがある納税者にとって「税務調査」はできれば経験したくない、避けたいと思う「事件」ではないでしょうか。
国税庁は毎年税務調査に関する統計を公表しており、昨年末に平成18年の相続税に関する税務調査の統計が公表されました。統計内容は例年と比較して著しい変化はなかったのですが、相続税調査に関する統計は一般的にあまり知られていないため、本稿ではその調査結果を紹介するとともに、その調査結果から読み取れる相続税調査のポイントを考察します。



2.調査データ

(1)相続税申告事績と考察


①死亡者数 約108万人


②相続税の対象者数 約4万5千人


平成18年中に亡くなった方のうち相続税の納税義務があった方はわずか4.2%でした。この割合は年々減り続けており、相続税はごく一部の富裕層にしかかからない税金となっています。
一方最近では基礎控除の縮小・相続税の課税方法の変更の議論の声も上がっており、今後の税制改正の動向が注目されます。


(2)税務調査事績と考察


①税務調査件数 14,061件


②申告漏れ指摘件数 12,061件


全体に占める申告漏れ割合は85.8%、つまり税務調査が行われた結果85.8%の割合で財産の申告漏れが指摘されています。


③重加算税対象件数(悪質とみなされたもの) 1,820件


全体に占める重加算税対象割合は15.1%、つまり税務調査が行われた結果15.1%の割合で悪質な所得隠しが指摘され、重加算税という重いペナルティが課せられています。


④申告漏れ課税価格 4,076億円


申告漏れ1件あたりの課税価格は3,380万円となっています。


⑤追徴税額 939億円


申告漏れ1件あたりの追徴税額は779万円となっています。


⑥海外資産について


海外資産に関する調査は年々厳しくなっています。平成18年度は364件の調査が行われ、292件の申告漏れ(申告漏れ割合は80.2%)が指摘されました。なお1件あたりの申告漏れ課税価格は約5,075万円と非常に高額になっています。


⑦申告漏れ財産について


税務調査に基づく申告漏れ財産の金額と全体に占める割合は次のとおりでした。


○ 土地674億円(16.7%)
○ 家屋73億円(1.8%)
○ 有価証券848億円(21.0%)
○ 現金・預貯金等1,440億円(35.6%)
○ その他1,009億円(24.9%)


(申告漏れ財産合計4,044億円)


申告漏れ財産のうち金融資産(現預金・有価証券等)が半分以上を占めています。



3.申告漏れ財産から見る注意点

(1)金融資産


家族名義に変えてしまった預金を一般的に「名義預金」と呼びますが、「名義預金」の計上漏れが非常に多くなっています。
実際に税務調査の場では預金通帳のチェックが行われることが多くあり、預金の流れを調べていけば不自然な預金の引き出しはすぐにチェックされてしまいます。計上漏れと判定された預貯金はそのまま全額が相続税の課税対象になりますので追徴税額も高額になってしまいます。くれぐれも「名義預金」には注意してください。


(2)土地


税務調査による否認額は預貯金に比べれば大きくはありませんが、土地は財産評価額が非常に大きいため評価方法等を少し誤っただけで税額が大きく異なってしまうことも起こりえますので、下記の点をはじめ充分な注意が必要です。


①評価ミス


財産の評価額が大きければ、数パーセントの評価ミスで大きな税額の差となります。
土地については一般的に「相続税法財産評価基本通達」をベースに評価することになりますが、評価方法は非常に細かく定められており、かつ特殊評価方法も多くあります。
近年は「広大地」評価に関するミスが目立ち、我々専門家も充分な注意を払って対処しています。


②小規模宅地選択ミス


小規模宅地評価減規程を利用すれば一定の面積について土地評価の50%~80%相当の評価減を期待することができますが、適用を誤ると相当な金額のミスとなってしまいます。
相続案件を専門に扱っている税理士の立場からすると当然のことなのですが、税理士に依頼せずに納税者自らが申告を行っている場合、もしくは相続に不慣れな税理士が申告を行っている場合等、実際に小規模宅地に関する適用ミスも数多く発生しています。



4.さいごに

相続税の税務調査官は日々税務調査を行っています。一般納税者の方が一生に一度もしくは二度あるかないかの相続税申告において財産を隠そうと思っても、税務当局がその気になり税務調査を行えば、簡単に財産計上漏れを発見してしまうでしょう。
当事務書にもたくさんの方が相続の相談にいらっしゃいますが、名義預金等の形で既に財産を他の親族の方へ移してしまっているケースも中にはあります。
(税金を少しでも少なく・・・)
という気持ちはわかりますが、
(いつか税務署が調べに来るのではないか・・・)
とビクビクしながら日々を過ごすよりも、信頼のできる専門家に相談し、合法的な節税を行いながら適正に申告をしたほうが、健全で毎日を安心して過ごすことができると思いませんか?



事業承継対策その5―事業承継の進め方

(新日本法規出版社-「e-hoki」、内にて連載中)


Ⅰ.はじめに
 前回までで事業承継対策の法務的・税務的な論点を見てきました。
本稿では実際に事業承継対策を行う場合のプロセスを紹介します。

 なお事業承継は主に下記の2点から考えていかなければなりません。
○ 人的な承継対策(後継者をどのように選定し、育てていくか)
○ 物的な承継対策(後継者へ株式・経営権をどのようにしてスムーズに引き継ぐか)

 本稿では上記のうち、物的な承継対策を進めていく部分に焦点を絞って説明していきます。



Ⅱ.ケース別承継方法
 事業承継対策において概ね方向性が定まってきますと、どのようにして実際に事業を承継していくか、承継方法の検討に入ります。
承継方法は下記のケースごとで大きく異なります。
○ 後継者が親族の者であるのか
○ 後継者が親族以外の者であるのか
○ 社内に適正な後継者がおらず、会社を売却することを選択するのか
○ 承継者がおらず、廃業を選択するのか


1.親族内での承継
 後継者が親族の者である場合、承継方法(株式の移転方法)としては第一に贈与を考えます。ただし多額の贈与を行いますと贈与税の負担が相当重くなってしまいますので、贈与とともに譲渡を組み合わせて行う場合も数多くあります。
事業承継対策にあたって税務に重点を置くのであれば、事前に株価引き下げを検討し、トータルで納税額が最も少なくなると思われる方法で移転計画を立てます。


2.親族外への承継
 後継者が従業員等の親族外後継者である場合、承継方法としては第一に株式を譲渡することを考えます。
 ただしこの場合後継者が株式買取り資金を準備しなければなりませんので、どのようにして後継者が資金を準備するかが大きな問題点となります。
これについては一般的には報酬を(合理的な理由が説明できる範囲内で)増額し、数年かけて買取りをすすめていくことが多いようです。
 また他の方法としては、支援を受けることが可能であればMBO(マネージメントバイアウト)という手法も有効です。
 MBOは、後継者(会社)が金融機関等から融資支援を受け、その資金を基にして現経営者から株式を買い取る手法です。これにより後継者が株式(経営権)を確保することができ、後継者を中心とした新体制を確立することができます。


3.会社売却(M&A)
 会社内に適正な後継者がいない場合、事業を存続させていくためには会社売却(M&A)が最適な場合もあります。
 M&Aが成立するかどうかはその事業の売り手と買い手の交渉で決まりますから、前回までで説明した自社株の算定方法とは異なったプロセスにより企業価値(株価)を算定します。
企業価値の算定方法は、将来生み出すと予想されるキャッシュを基に算定するDCF法、将来予想される利益と資本を基に算定する収益還元法、企業の財産価値を基に算定する時価純資産法等、複数の方法があり、様々な角度から企業価値を算定します。
 M&Aが成立すれば、現経営者は多額のキャッシュを手にする一方で、事業からは完全に離れることになります。


4.廃業
 社内に適正な後継者がおらず他の方法を検討した結果、事業を辞めることが最善であるという結論に至る場合もあります。
廃業を選択することになった場合、いかに問題なく廃業するかを検討していきます。
例えば下記の事項を検討します。
○ 借り入れを返済し、担保・保証を整理する
○ 従業員の再雇用先を確保する
○ 事業のうち存続できる部分・売却できる部分はないかを検討する

 廃業手続き自体はそれほど難しいものではありませんが、問題なく廃業するための準備は簡単でない場合が多くありますので、早くから会社の方向性を定めることも重要なことだと思います。




Ⅲ.事業承継の進め方
 物的承継に関する事業承継の進め方の一例を紹介します。

1.現状把握
 下記のポイントを中心にして企業の置かれている状況を整理し、現状を把握するとともに問題点を検討します。
○ 会社の財務状況・株価はいくらか
○ 現時点で資本政策上、問題点・リスクはないか
○ 現時点での経営上の問題点は何か(事業承継を行うことによってどのような変化・影響があると予測  されるか)
○ 現経営者の財産状況・親族関係はどうなっているか
○ 後継者の財産状況(株式の引継ぎは可能か)


2.承継計画の立案
 現状把握を基にして「承継」という目標に向かって具体的な計画を立てていきます。漠然とした計画ではなく、時間軸を基に具体的な数値を定めて計画を立てるべきです(事業承継対策は長期間に及びますので、途中で計画が変更されることもよくあります)。

3.実行
 承継計画に基づいて手を付けることができる部分から実行していきます。


4.検証・修正
 事業承継対策は一般的に長期間に及びますので方向性が変わることもあります。修正すべき事項が発生した場合は計画を見直し、「承継」という目標に向かって軌道修正します。



Ⅳ.さいごに
 5回に分けて事業承継対策を考えてきましたが、承継対策は長期に及びますし、想定される問題点は多岐に渡ります。
(当社は後継者が決まっていないから・・・)
と事業承継の問題点を先延ばしにせず、検討できる部分からでよいので早い段階から専門家に相談し、事業承継の問題を考えていただきたいと思います。



事業承継対策その4 ― 自社株評価減額対策

(新日本法規出版社-「e-hoki」、内にて連載中)


1.はじめに
自社株(未上場株式。以下自社株)の評価額は資本金の額とは直接関係がなく、また会社の時価純資産額ともかけ離れている場合もあります。実際に自社株の評価を行ってみると予想外に低額である場合がある一方、相当高額になっている場合もありますので、自社株の評価額がいくらなのかを知るにはまず株価評価の計算を行ってみなければなりません。計算した結果、自社株の評価額が高いため相続発生時・事業承継時において様々な問題が発生じそうな場合には、自社株の評価を引き下げることができないかどうか早い段階から対策を考えることが重要です。

そこで本稿では自社株の評価額を引き下げる方法を紹介します。
なお自社株の評価方法は前回のコラムを参考にしてください。



2.自社株評価減額対策


(1)基本的な考え方
自社株は相続税財産評価基本通達に基づいて評価されますが、評価の基礎となる算定要素は細かく定められています。
 自社株評価の引き下げを検討する場合、一般的な対策としてはこれらの算定要素の数値を引き下げることができないかをまず検討します。



(2)算定要素の引き下げ


○ 類似業種比準価額方式
 類似業種比準価額方式は、「配当」「利益」「純資産」の3要素を基にして評価されます。
よって評価を引き下げるには、
(ア)配当を引き下げる
(イ)利益を引き下げる
(ウ)純資産を引き下げる
ことを検討します。


○ 純資産価額方式
純資産価額方式は、会社の時価純資産を基にして評価されます。
よって評価を引き下げるには、
(ア)時価純資産を引き下げる
ことを検討します。



(3)評価引き下げ対策-具体例
(2)の考え方を基にして株価評価を引き下げる可能性がある対策を紹介します。


○配当をやめる(もしくは配当率を下げる)
 配当を引き下げれば配当要素は引き下がります。しかし一方で会社の内部留保は高まるため純資産価値が高くなります。そこで株主=役員の会社においては、配当は出さずにできる限り役員報酬として支給する(内部留保を下げる)ように考えます。


○役員報酬を増額する
 合理的な基準により役員報酬を引き上げれば会社の利益は下がり、株価評価が下がることが想定されます。


○役員退職金を支給・準備する
 役員退職金の財源を準備しておき、役員退任時に役員退職金を支給します。すると役員退職金という大きな損金が計上されますので、役員退職金の支給により株価評価が下がることが想定されます。
役員退職金は税効果・株価対策という点だけでなく、役員(遺族)の生活資金・納税資金としても必要ですので、非常に有効かつ重要な対策だと考えます。


○高収益部門を切り離すなどの組織再編を行う
 会社分割・営業譲渡・株式交換等の組織再編を行うことにより株価評価が下がる場合があります。特に高収益部門を切り離せば株価評価が下がることが期待できます。
 しかし他の対策にも共通して言えることですが、組織再編の場合は特に対策を見誤ると、逆に株価が上昇してしまったり、行った対策が経営上マイナスに働いてしまうこともありえますので、事前に綿密な検討・準備・シミュレーションが必要です。


○含み損のある資産を売却・処分する
 含み損のある資産を売却すれば損失が実現しますので、株価評価が下がることが想定されます。


○不良債権・不良在庫の処分
 上記と同様に不良債権・不良在庫を処分すれば損失が実現しますので、金額によっては株価評価が下がることが想定されます。


○損金性の高い保険の活用
 損金性の高い保険を活用すれば株価対策として有効です。しかし損金性が高くかつ貯蓄性も高い保険については、最近特に税務リスクが高まっていますので充分注意すべきです。


○借入金による賃貸不動産の取得
 借入金で賃貸不動産を取得すれば、借入金は額面評価、取得不動産は路線価・固定資産税評価額等で評価(ただし取得後3年間は時価で評価)されることになり、取得前よりも全体の時価純資産額が下がり、株価評価が下がることが想定されます。


(4)移転方法
相続対策・事業承継対策としては、自社株評価を引き下げた後、贈与・譲渡等の方法で株式を後継者・役員・持ち株会等へ移転します。
なお対策は株価評価の引き下げだけでなく、スムーズな相続対策・事業承継対策を進めるために、移転スケジュールまで並行して検討すべきです。


3.さいごに
 以上株価評価を引き下げる可能性のある対策を検討しましたが、対策は「株価対策」という一方向のみで考えるのではなく、多方面からよりよい方法を考えるべきです。
合理的な理由が伴っていない対策は税務上否認されるリスクを伴いますし、相続対策としては有効であっても相続対策効果以上に他の税金が上昇したり、行った対策が事業戦略上マイナスに働いては対策を行う意味がないと思います。
まずは綿密な検討を行い、経営上プラスに働くような対策であれば積極的に実行していただきたいと思います。




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